『死神の日曜日』伊東良著【「本が好き!」レビュー】
提供: 本が好き!魔法とは何か。
多くの物語では、それは科学技術の代わりの役割を果たす。
そして、魔法を使えるのは、ほとんどの人々か、一部の選ばれた層だ。
科学文明を急速に発展させる必要がないことから、時代設定は近世だ。
王制による主権国家、各国との貿易はあるが、ミサイルのようなものはない。
本作は、このような世界観とは大きく趣が異なる。
日本で言えば、1970年代頃であろうか。
自動車はあるし、防犯ベルもある。総合病院もあれば、核ミサイルまである。
逆に言えば、私達と同様に、ふつうの人々は魔法がなくても生活できる。
魔法を使える者は指で数えられるぐらいだ。
それでは、科学技術が発展した世界で、それでも使われる(使われようとする)魔法とは何か。 それは、神の領域の力である。ちなわち、不老不死や予知である。
更にそれでは、神の領域の力を持つ者がそれでもなしえないもの(逆に言えば、主人公達の武器)とは何か。
それは、人々の心を操ることである。
巨悪とて、心を直接支配できる訳ではない。
嘘で自分の都合のいい状況をつくって、誘導するぐらいだ。
つまりこれは、魂の高潔さを主題にした作品なのだ。
味方側も敵側も、おどおどしたキャラを含めて皆、「自分」というものがある。
魔女、死神、幽霊とファンタスティックな要素はあるが、抑制のきいた人物造形で、いわゆる「キャラもの」のような過度にエキセントリックな人物はいない。どちらかと言えば、多様ではあるが私達のまわりにいそうな、親しみやすい、共感できる者ばかりである。
そして、多くの女性キャラの能動的な活躍が物語を駆動させるエンジンとなっており、今時の世相を反映させてもいよう。
物語では魔女が絶大な力を手に入れるために、奸計を図るのだが、なぜ奸計を図らねばならないか、またその奸計の中身が物語の縦糸になる。 それが他作にはない、本作の魅力をもたらしている。
主人公をはじめとしたキャラ達の愛すべき姿は直に読んで味わっていただくしかない。
そして読めば、書評者と同様に、まだまだ活躍し足りない(もっと活躍させたい)と思われるだろう。
次回作を期待したい。
(レビュー:ひろP)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」