だれかに話したくなる本の話

『温故知新で食べてみた』山本直味著【「本が好き!」レビュー】

提供: 本が好き!

それは、昭和6年に「主婦の友」で発表された「クリスマスサラダ」。
作り方はコチラ↓
① 輪切りにしたリンゴの真ん中をくり抜き、お皿に置く。
② 皮を向いて半分に切ったバナナを、その穴に差し込んで立てる。
③ バナナの先端に赤いサクランボ(1/2)をのせ、上から白いソース(マヨネーズソース)をかける。

これどうやって食べるんだろ?やっぱ「先端」からガブッと・・・ってヤバくない?
でもちがうの!そーゆーのじゃないのよっ!
この卑猥・・・じゃなかった素敵なサラダは、昭和5~9年に「主婦の友」で自由な発想を元に経済的レシピの数々を発表された大下夫人による、「10人以上だと材料費が1人50銭以内になる節約メニュー」。
つまり、お家でクリスマスパーティーを開くマダムお助けメニューなのです。
だから・・・え!?これが10個テーブルに並んでるの!?ヤバくない?なんて思っちゃダメ!(一番思ってるのは私(笑))

閑話休題。
著者は書名と同様のブログ「温故知新で食べてみた」で、戦前、主に昭和初期の料理本や婦人誌に掲載された「和洋折衷」レシピを、出来るだけ当時のレシピのままで実際に作って食べて、昔の日本をプチ体験するために料理をされています。
(本書は、大正15年~昭和13年の「主婦の友」本誌・付録に掲載されたレシピを再現したとのこと。)

この「和洋折衷」がポイント。
まだ一般家庭でなじみがない洋食を食卓へ取り入れやすいようにアレンジしたレシピなわけですが、レシピを考察するほうもちょっと不慣れなためか、時々紹介されるアバンギャルドな料理に強烈な興味を持った著者の行動力がすごい。
レシピを忠実に再現するためだけに、材料を遠方へ探し訪ねたり、一日がかりで調理したり、手間もお金も時間も惜しまない!
レシピの完全再現が重要なので、現代人の舌に合うようにアレンジなんてもっての外!一般的な料理の最大目標の一つ「美味しい」は二の次三の次。
ゆえに、前衛的料理は味も比例して…まぁかなり不味いことも少なくはなく、それでもちゃんと頑張って食べきるのは、見上げた心意気だと感心しきりです。

☆こりゃマズそうだと確信できるのが、「カステラのゼリー」

水で軟らかく煮た桃を潰してジャム状にしてカステラに挟み、それを幾重かに重ねたものと切ったバナナを器に盛り付け、そこへ煮溶かした寒天と桃の煮汁を合わせて流し入れ固めるというもの。

甘いカステラは寒天を吸って噛むとぐしゃっぐずっ食感、バナナはふやけてぶかぶか味食感、寒天自体は桃ジャムなんて打ち消す味の無さとか・・・どんな責め苦?

☆見た目がアレなのが、「鮭のカップ蒸し」

これは茶碗の内側にうどんを張り付けた中に、擂った鮭とじゃがいもに玉子・塩・胡椒・味の素を加えたものを詰めて蒸し、仕上げにトマトソースをかけたもの。

とにかく見た目がさぁ・・・血を吹く脳みそみたい・・・( ̄x ̄;)
味はぼや~んとして、食感はもっさりだとか。

その他、「干物のポテト詰め」(魚の干物にポテトサラダを詰める・・・干物に?)、「鮪のマリネー」(鮪のマリネのケチャップかけ・・・ケチャップだよ?)、「スタッフド・トマト」(トマト1個のなかをくりぬいて缶アスパラを詰めた、未確認生命的料理)・・・etc
レシピを作っている人は、もちろん大真面目です。当時のマダムたちには、家庭で作れるハイカラ料理としてもてはやされたのかもしれません。
ただ・・・現代の私には、この料理を作って果敢に食べる著者が勇者に見えます(笑)。

そんなわけで、お料理の本なのに日々の食卓にはあまり役立たないですが(笑)、眺めて読んで楽しい本です。
退屈な日々の横っ腹にパンチをぶちかますであろう本書を、現代に生きる善男善女の皆様にお勧めいたします。すっごいぞー!(笑)

(レビュー:薄荷

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

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温故知新で食べてみた

温故知新で食べてみた

主婦の家族への愛は昔も今も変わらぬ思い。昭和初期の台所を温故知新でたずねれば、知って、真似して、工夫したくなる家ごはんの新常識が見つかります! 笑えて、学べて、遊べて、得する新世代主婦の教科書です。

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