DXのメリットを最大化する処方せん
DXで会社が変わる

DXで会社が変わる

著者:竹本 雄一
出版:幻冬舎
価格:1,430円(税込)

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本書の解説

近年、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉をあちこちで見かけるという人は多いはず。

DXとは、簡単に言えば「デジタル技術によって人の生活や企業活動をより良く変えていくこと」。ビジネス分野でよく話題になるが、キャッシュレス化やペーパーレス化など日常生活で恩恵を受けることも多い。コロナ禍で普及したテレワークやリモート会議もDXの一つである。

企業にとっても生産性向上や業務効率化、ビジネスの機動性の向上など、導入のメリットは大きい。そのため導入に動く企業は後を絶たないのだが、注意点もある。『DXで会社が変わる』(竹本雄一著、幻冬舎刊)は、DXの可能性や導入の際に注意すべきことなど、企業が今欲しい情報を、実例を交えて紹介していく。

紙の書類をデジタル化するだけでは何も起こらない

本書ではDXを「デジタルによる変革」と位置付けている。
DXの話題では「デジタル化」ばかりに注目が集まるが、本質はどちらかといえば変革の方。

そのため、本書ではDXはまず目的を定めよ、としている。紙の書類をデジタルにするだけでは、何も起こらないからだ。

書類をデジタル化することで、業務を効率化するのが目的なのか。それともデジタル化した情報を新たな事業に活用し高付加価値のサービスを生み出したいのか。デジタル化によって何を変え、何を達成したいのかをはじめに明確にするのがDX導入を成功させる最大のポイントだ。

DX導入の理想は「トップダウンで導入」

また、目的があったとしてもDX導入にはいくつかの障壁がある。その一つが社内のデジタル化への理解だ。会社全体のデジタルに対する理解が浅ければ、デジタル化を推進してもムダに終わってしまうかもしれないし、熱心な推進者がいたとしても導入がうまくいかないかもしれない。

デジタル化によって今のワークフローを変えたり、現行のやり方を変えなければならないケースは多々あるし、デジタル化した業務がなじむまで時間がかかる。もしかしたら、今のやり方を変えることに抵抗がある人もいるかもしれない。こうしたなかでDXをスムーズに導入するためには、「何をデジタル化するのが会社にとって最大のメリットになるのか」という見極めと、「トップダウン」で行うことだという。

その見極めができないと、DXはかえって重荷になってしまうことがある。そしてトップダウンで導入することで、社内にいるデジタル化を好まない人も会社の方針を理解するようになりやすいのだ。



DXをいかに導入し、活用していくかは、今後多くの企業が直面する課題になるはず。何から始めていいか迷った時、何をデジタル化すればいいかわからない時、デジタル化によってどんな効果が期待できるかを知りたい時、本書から適切なアドバイスを得ることができるだろう。

何より、著者の竹本雄一氏自身がDXの恩恵を受け、大きな取引を成立させた一人。竹本氏が経営するアジア合同会社は、全国の児童・生徒に一人一台のコンピュータを行き渡らせる文部科学省のGIGAプロジェクトに参画し、徳島県下の小中学校に中国メーカーのタブレット6万台を納入した。購入のための交渉は全てオンラインで行ったという。

このGIGAプロジェクトによって一気にIT化が進んだ日本の教育現場。本書で竹本氏は、あと5年もすればタブレットで学ぶことに慣れ親しんだ子どもたちが社会人になる一方で、デジタル的な働き方が浸透していない日本の社会に警鐘を鳴らし、DXが持つ大きな可能性だけでなく、今の日本の問題点についても鋭く指摘している。

(新刊JP編集部)

インタビュー

 

■日本の役所でデジタル化が進まない理由

冒頭で書かれている、徳島県内の学校への中国メーカーのタブレット導入の話は面白かったです。現地に足を運ぶことなく大量のタブレットを買い入れることに不安はなかったのでしょうか。

竹本: 不安がなかったというと嘘になりますが、導入したタブレットはAmazonで販売されていたので、取り寄せて使ってみたら値段の割に品質が良かったんです。それでメーカーにコンタクトを取ったという流れです。

現地には行っていないものの現物は見ていたんですね。

竹本: そうです。もう一つ不安を取り除けた要素があって、コーディネーターの方の存在が大きかったんです。中国製品の日本への輸出を長年やっている方に間に入っていただいたおかげでスムーズに取引ができました。

今回、DXについての本を書こうと思った理由をお聞きできればと思います。

竹本: 2019年から文科省が「GIGAスクール構想(全国の児童・生徒1人に1台のコンピューターと高速ネットワークを整備するプロジェクト)」を始めました。

これによって子どもたち一人ひとりがタブレットを使って教育を受けるようになったのですが、もう何年かしたら彼らが社会に出てきます。そうなった時に受け入れ側の企業や自治体が彼らの能力を活かせる状態になっているのかという懸念を持ったことです。

DXについては、日本は遅れていると言われていますね。

竹本: そうですね。世界と比較すると住民票一つとっても、今はコンビニで取得できるようになっていますが、色々な手続きをまだまだアナログで処理しなければならないのが現状です。

最近の例でいえば、山口県で起きた新型コロナ給付金の誤振込にもその一端が見えていて、振込元の自治体は報道にもあったように、振込の詳細が入ったフロッピーディスクを銀行に渡して、銀行が振り込み処理をしました。これって役所の方がオンラインバンクに慣れていれば不要なプロセスなんですよね。

あの件でフロッピーディスクという言葉を久しぶりに聞いたという人は多かったと思います。

竹本: そうですよね。オンラインバンクだと、「この人に本当に振り込みますか?」と、振り込む前に確認画面が出るじゃないですか。それに慣れていれば一人の人に何千万円も振り込む前に気づくはずです。

他の自治体もコロナの一律定額給付金の支給では手間取っていましたが、これもデジタル化されていないことが原因としてあったのでしょうか。

竹本: おっしゃる通りで、NTTデータさんがこの業務に関してのサービスを全て無償で提供すると全国の自治体に案内していて、うちも会社がある徳島県内の自治体に「サポートしますから一緒にやりませんか」とお声がけしていたんですけど、「そんなわけのわからないことはしない」という反応が多かったです。これまで通り紙の申請に基づいてやります、と。

コロナ関連でいえば、陽性者の集計をFAXでやっている自治体もありましたよね。

竹本: 集計用のウェブシステムを作ること自体は簡単なんですよ。問題はそれを入力する人の能力と言いますか。

ITスキルがついていかない。

竹本: そう思います。慣れ親しんだFAXで送って、Excelに打ち込むのが、役所的には一番速かったのでしょう。

保健所の方もプライベートでLINEを使ったりメールのやり取りくらいするだろうと思うのですが…。

竹本: 陽性者数の報告をメールでやると仮定すると、データのやり取りを全部添付でやるでしょう。そうなると、新しいデータと古いデータを取り違えるという可能性が出てきますよね。

あとは誤送信もありえます。今のメールソフトって最初の3文字くらい入力するといくつかの候補が出てくるじゃないですか。送る人はこのアドレスだと思い込んでいても、実は候補に出てきた違うアドレスに送ってしまっていた、というのが一番の「あるある」だと思います。まして個人名や入院先などの個人情報もやり取りするでしょうし。

個人情報が全然違う人に送られてしまうミスは怖いですね。

竹本: もちろんFAXでも誤送信はあるのですが、ワンタッチで登録しておけばそんなに起こるものではありません。

本当はFAXを紙で出さずにデジタル処理をして、そこから自動的に集計をするということはできるんです。ただそこまでやると、現場の人がついていけない可能性がありますし、メンテナンスの問題もあります。

お話を聞くと、自治体のDXは長い道のりのように思えます。

竹本: 長い道のりですよ。どうしても現場ではRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)や自動化をすることで自分の仕事がなくなると考える人がいますし。

首長が若い自治体だと比較的理解が早いのですが、それでも予算を通すのには議会の承認が必要です。高額でなければ通りやすいのですが、何億単位の「目玉予算」となると長くやっている高齢の議員の方の反対にあうこともありますね。「DXなんて知らん」「RPAって何だ」ということで。

ただ、DXの道のりの長さでいうと自治体に限らないと思います。企業さんでもまだまだアナログでやっているところはたくさんありますから。

海外のDX事情について教えていただきたいです。

竹本: 隣の中国はものをたくさん作ることに長けた国とあって、いわゆる「中華タブレット」を学校に配っていましたよね。だからコロナ禍でも「今日からオンライン授業をします」と言ってすぐ対応できたんです。

アメリカはGoogleのOSが入っている「Chromebook」を100ドルで売り出していて、日本のように家電量販店でしか買えないものではなく、どこでも売っています。

そんなに安いんですか?

竹本: そうです。その価格であれば買い替えも容易ですし、国や教育機関の負担で買うのではなく、教科書と同じように各家庭で準備する体制にするということも考えられますよね。

■DXは「単なるデジタル化」ではない

「DXとは何なのか」という根本のところが、日本では今のところ曖昧になっている印象があります。この点につきまして竹本さんのお考えをお聞かせいただければと思います。

竹本: いろいろな考え方があると思うのですが、よく言われるのは「アナログをデジタルにするのがDXではない」ということです。DXは決して単なる「デジタル化」ではない。

本では「ソリューション=リレーション」と書かせていただきました。つまりあるデジタル化した作業を次の作業にリレーできなければ作業の効率化にはなっていない、ということです。RPAにしても、導入するからには業務を可視化して属人化させないように、誰がやってもできるようにしないといけません。

その業務が次の業務に自動的につながる、もしくは誰しもがその流れに乗れる「リレーション」が必要です。

企業がDXを導入した際の成功事例と失敗事例をご存じの範囲で教えていただければと思います。

竹本: ある大手自動車メーカーのディーラーの例なのですが、これまで車検というとディーラー側が各ユーザーの車検の時期に合わせて電話をして日取りを決めていましたよね。でも今はみんなスマホを持っていますから、そのディーラーは車検や点検の予約をLINEでできるようにしたんです。裏では、LINEと自社の車検システムの連携をしたはずですが、これも一つのDXですよね。電話をかけて日取りを決めるよりも効率的です。

失敗例もお聞きしたいです。

竹本: ある学習塾のRPAで、5人いる先生が一週間でどれだけ授業をしたかというのを自動的に計算するようにした事例があります。実はこれは我々が手がけたことなのですが、学習塾の目的は子どもたちがどれだけ点数が上がったかじゃないですか。その意味ではあまり意味のない施策だったのかなと思います。データの活かし方が悪かったといいますか、目的をまちがえたデジタル化だったと思います。

何を達成するかという「目的」の設定をまちがえると、DXもまちがった方向に進んでしまう、ということですね。

竹本: そうです。世の中のものって、方程式があればデジタル化、自動化は可能なのですが、「何を求めたデジタル化・自動化なのか」を見誤った結果、変な方向に行ってしまったケースはたくさんあると思います。

書類のデジタル化から、決済のキャッシュレス化、単純作業のロボット化まで、DXはかなり幅の広い概念です。企業がDXを推進していくにあたって、どこから手をつければいいかわからないこともあるかもしれません。これからDXを取り入れる会社にアドバイスをいただければと思います。

竹本: 単純作業であればあるほど、それをもし人的作業で行なっているのであればデジタル化するというのが一番早いのではないでしょうか。たとえば手元にある集計表をExcelに転記するような作業は意外とまだあって、それを人間がやると必ずどこかでミスが出ます。

これはRPAですぐにデジタル化できますし、デジタル化することで、違うシステムにデータを渡しやすくなる。先ほどのお話であった「リレーション」が生まれるわけです。

またDXを推進することで企業には業務効率化や生産性向上、新たなビジネスの創出など様々なメリットがあるとされています。このメリットを最大化させるためには何が必要なのかについて、考えをお聞かせいただければと思います。

竹本: 極力業務を可視化することでしょうね。もう一つはその業務が次に何に役立つかという「リレーション」を考えることです。

「リレーション」を考えることによって、それぞれの業務がどんな人、どんな部署と関わっているのかがわかってきますし、DXでどこを効率化すれば次の人が楽なのかもわかってきます。それによって組織全体がDXの恩恵を享受できるようになると思います。

最後に、本書の読者となる企業経営者やDX導入に関わる部署の方々にメッセージをいただければと思います。

竹本: 本の帯にもあるのですが、地方だからといってDXを諦める必要はありません。逆に地方が有利なこともたくさんありますので。自分が置かれているロケーションや能力に合わせてDXを導入してみていただければと思います。

(新刊JP編集部)

書籍情報

目次

  1. プロローグ
  2. 私の流儀「チャレンジ」
  3. DXが会社を変える原動力となる
  4. 業界という壁を越える
  5. どう中国とつきあうべきか?
  6. エピローグ

プロフィール

竹本 雄一(たけもと・ゆういち)
竹本 雄一(たけもと・ゆういち)

竹本 雄一(たけもと・ゆういち)

昭和44年(1969)、大阪府堺市に生まれ、徳島県阿波市で育つ。
徳島県穴吹カレッジ卒業後、NEC、リコー勤務などを経て、平成27年(2015)、アジア合同会社を設立、令和3年(2021)、アジア株式会社に改組。同社の代表として、自治体・民間のDX業務に携わっている。

DXで会社が変わる

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著者:竹本 雄一
出版:幻冬舎
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