会社の業績アップに直結する「真の働き方改革」とは?
働きやすさこそ最強の成長戦略である

働きやすさこそ最強の成長戦略である

著者:大槻 智之
出版:青春出版社
価格:1,650円(税込)

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本書の解説

働き方改革が叫ばれ、企業が対応に乗り出したところにコロナ禍が直撃し、テレワーク化の波が一気にやってきた。ただでさえ残業時間の削減や有給休暇の取得率改善に取り組んでいるさなかに、自宅で働く社員の労務管理をどうするかが問われ、テレワークにマッチするように既存の評価制度の見直しも必要になる。働く方も大変だが、会社も大変だ。

ただ、「働きやすさ」は会社にとって最高の武器にもなる、としているのが『働きやすさこそ最強の成長戦略である』(大槻智之著、青春出版社刊)だ。社員一人ひとりが働きやすい環境を整えることは、巡り巡って会社が成長するための原動力になる。

「仕事量は減らせないが残業時間は減らせ」が社員を苦しめる

労働をとりまく環境が変わっても、成長を遂げる企業には一つの共通点があります。それは例外なく、労働者と使用者の関係性が良好なことです。(P220より)


この関係性を良好に保つためには、時代の変化とともに変わっていく「働きやすさ」を会社側が感じ取って、アップデートしていくことが求められる。しかし、社会的に求められている働き方を表面的に導入しただけでは、意味がないどころかかえって働きにくくなってしまうケースも。社員の働き方の実態や部署ごとの仕事の性質などを含めて、自社に合った働き方を考えていく必要がある。

たとえば働き方改革の流れで話題になることが多くなった「長時間労働の是正」を見ても、取り組む会社は多いが「やりたいが特にアイデアがない」ケースもある。こういう会社でありがちなのが、「仕事量は減らせないが残業時間は減らせ」という無理難題が会社の上層部から降りてきて、上司はそれをおうむ返しするように「早く帰れ」と言うだけのパターンだ。

これでは「顧客に迷惑はかけられない」と考える部下が悩まされるだけ。業務の効率化などの取り組みがないまま早く帰ることを強いても働きやすさからはかけ離れてしまうし、長時間労働の是正にもつながらない。

残業はしているのにタイムカードは定時で打刻したり、業務評価の基準に残業時間の上限が盛り込まれた結果、自分の評価を上げるために残業時間を過少申告する事例もある。実体を伴わない「長時間労働の是正」は、会社がコンプライアンス違反に問われる危険があるばかりか、評価制度を形骸化させてしまう可能性もある。

テレワークの必需品 コミュニケーションツールで起きたパワハラ

また本書では、会社が新しく導入したツールが思うような効果を上げず、結果的に社員の負担になってしまうケースも紹介している。

コミュニケーションの円滑化のためにチャットツールやLINEを導入する会社がコロナ前から増えていたし、コロナ禍でテレワークになった会社にとってはこれらのツールは必須だろう。

ただ、役職や立場を超えて発言できる便利さの一方で、運用ルールを決めておかないと厄介なことになるのもこれらのツールの特徴だ。たとえば社長が何かを書き込んだ時に、みんなが一斉にスタンプを押したり「さすがです」「勉強になります!」と書き込むため「自分も何か書かないと」と気に病んだ経験がある人は少なくないではないか。場合によってはハラスメントだと感じる人もいるかもしれない。

社内のコミュニケーションをLINEグループでとっていたある会社では、上司が複数の部下に意見を求めた際に「既読スルー」をして意見を表明しなかった部下に対して、「俺に賛同しろとは言わないが、何か意見を書けよ」「おい、既読しているなら返事しろよ」などとメッセージを送りつづけた事例がある。

部下がどう返事をしたものか悩んでいるうちに、上司は「全く協調性がない」「何も意見を言わないような人間は俺の部下にいてほしくない」と部下を誹謗中傷するような書き込みを始め、最終的にその部下をグループから外してしまった。上司からの圧力で、LINEの着信音自体に恐怖を覚えるようになってしまった部下は、メンタル不全に陥り、休職してしまったという。

便利な一方で、運用ルールがないと上下関係が文字として剥き出しになる怖さがあるコミュニケーションツール。「勤務時間外は使わない」「事務連絡以外は使わない」「個別のやりとりはしない」などのルールを決めた上で利用するのが大切だ。



働き方改革は決して、単に労働時間を短くしたり、在宅勤務を認めたり、優遇や免除の制度を作ることではない。特定の環境でも能力を発揮できるように環境を整備し、社員を離職させないことこそ、本当の働き方改革だと本書の著者である大槻智之氏は言う。

性格も背景も考え方もさまざまな社員がそれぞれに余計なストレスを抱えることなく力を発揮できる環境を整えれば、それはいずれ必ず会社の業績アップとなって返ってくる。では「働きやすさ」とは何なのか。それを実現するには何をすればいいのか。本書は実例を交えてその具体的な手順と方法を教えてくれる、格好の教材だ。

(新刊JP編集部)

インタビュー

大槻 智之(おおつき・ともゆき)

■「長時間労働の職場=働きにくい職場」ではない

『働きやすさこそ最強の成長戦略である』は今の企業の働き方の実態がクリアに見える本でした。まずお聞きしたいのが、この本で大槻さんが訴えている「働きやすさが企業の成長(業績の向上)につながる」という意識をどのくらいの企業が持っているのかという点です。

大槻: ほとんどの会社はわかっているとは思います。ただ従業員の働きやすさを追求しているかというと、そこはあまりやっていない気がしますね。

様々な環境や立場の従業員がそれぞれに働きやすい職場を作ることで離職率が下がり、結果として企業の成長に結びつくということを感覚としてはわかっている。

大槻: そうですね。ただ、何らかの制度をとりあえず入れてみる、というところで止まっているケースが多く、そこまで踏み込んだことはできていない印象です。

それは、働きやすさのために何をすればいいかがわかっていないということですか?

大槻: わかっていないこともあるでしょうし、わかろうとするところまでいっていないのもあると思います。というのも、今、企業の人事を取り巻く環境はすごく規制が多いんです。法令順守の方に手一杯で、それ以上のことができない会社が多いのだと思います。

企業側が提供する従業員の「働きやすさ」について大槻さんが意識するようになったきっかけがありましたら教えていただきたいです。

大槻: 私は社労士なのですが、「どうしてこんなに労務のトラブルが多いんだろう」と昔から疑問だったんです。労使間のトラブルって、たとえば会社側が法律違反をしていたとかわかりやすいものもあるんですけど、そうでないものもたくさんあります。

法的に問題がないとすると、それはその従業員と会社の相性が悪かったということです。そもそも会社の居心地のよさや働きやすさって人によって違うじゃないですか。今は労働時間を短くしようという方向に世の中が動いていますが、以前料理人やシェフを目指す人たちに取材させてもらったら、彼らは逆のことを考えていました。

つまり、彼らは早く独立したいので、労働時間が延びてもいいから早く独立に必要な知識や技術を教えてもらいたいんです。これは極端な例ですが「長時間労働の職場=働きにくい」とは必ずしも言えません。一番大事なのは「マッチング」なんです。会社の飲み会だってそうじゃないですか。

「若い人は会社の飲み会に行きたがらない」とよく言われますが、好きな人もいるでしょうからね。

大槻: 飲み会が好きな人なら、仕事外のコミュニケーションの場になるイベントが多くある会社は「働きやすくていい会社」となるでしょうし、飲み会が嫌いな人には「最悪な会社」になる。そういう意味では会社と人のミスマッチをなくしていくことが本来的な「働きやすさ」に繋がっていくのだと思います。

だから、今回の本では働きやすい職場を作るために「これをやるべき」ということまで踏み込んでいません。それよりも「こういう取り組みをしている会社なので、うちのやり方に合う人は来てね」というスタンスを作る方がいい。

会社としてやっている施策を明確に打ち出すことができれば、ミスマッチは減らせるということですよね。

大槻: そうです。給与も「うちは年功序列ですから」と最初に言っておけばそれに不満を持つ人は来ないわけですから。ただそこで嘘をつく企業がけっこうあったりするんですよね。嘘ではないにしろ、たとえば残業時間は各部署の中間値をとって一番少なめの数字を乗せるとか。それって全然意味のない数字じゃないですか(笑)。

たしかにそうですね。

大槻: 採用の時に嘘や誇張が入ると、入ってから「こんなはずじゃなかった」ということで人が辞めやすいんです。そういうところで本当の意味の働きやすさとは何なのかを企業は追求してほしいという思いで今回の本を書きました。

従業員の働きやすさのためや多様性の確保のために、会社によってはすでに様々な取り組みをしています。メディアでも取り上げられているものも多くありますが、大槻さんから見て「これはうまくいかないだろう」というものがあったら教えていただきたいです。

大槻: 週休3日制は、私が聞く限りコケているところが多いですね(笑)。

休みが3日もあるなんてみんな嬉しいんじゃないかと思ったのですが、そうでもないのでしょうか。

大槻: 週休は3日にするけど給与を下げるとか、残りの4日間は長時間働いてね、とか、単純に休みが1日増えるだけという会社は少ないんですよ。だから「給与下がってまで休みたくない」「そんなに長時間働けない」という人が一定数出てくる。

なるほど。それは全然うれしくないです。

大槻: 給与や労働時間はそのままで週休3日にする方法もなくはないと思うんですけども、大企業になればなるほどインパクトが大きいのでなかなかできないんですよね。だから見た目だけの「週休3日制」になってしまうんです。

逆に従業員の働きやすさの追求が業績の向上という結果に表れた会社の例があったら教えていただきたいです。

大槻: 私が知っている会社は労働時間を完全にフリーにしました。何時に仕事を始めてもいいし、どこでやってもいいというように。もちろん深夜労働には割増賃金を払わないといけないなど法的な問題はありますが、従業員から苦情が出ていないのでそこはクリアしたのでしょう。結果として生産性が上がったそうです。

その働き方が従業員たちの求めるものと合っていたということでしょうね。

大槻: IT系の会社だったので、集合して同じ時間に仕事をすることがそこまで必要ない職種だったというのもあります。ただ、それによって離職率が下がれば無駄なコストは確実に減るんですよね。働き方が従業員の求めるものと合っているというのに加えて、評価制度がきちんとしていれば組織の生産性は上がっていきます。

大槻 智之(おおつき・ともゆき)

■「残業削減で上司にしわ寄せ」をなくすためにすべきこと

何年か前に「1億総活躍社会」という言葉が使われて、子育てをしている人も、親の介護をしている人も、定年を過ぎた人も、みんなが活躍できる社会にしましょう、と言われていました。多様な人たちがそれぞれ能力を発揮できる会社にするというのは簡単ではないし、すぐにできることでもないと思うのですが、どんなことが必要になるのでしょうか。

大槻: 少なからず課題はありますが、一番手っ取り早いのは定年制を見直すことですかね。今はだいたい定年が60歳で再雇用で65歳までですが、それを70歳まで引き上げるとか、そもそも定年制をなくしてしまうとか。あとは育児休業とか介護休業を充実させることもやりやすいですよね。特に介護は法的な制度だけでは到底足りないので、会社として独自の介護休暇を設けたり、リモートワークを拡充して、どんな職種でも、介護離職することなく働けるような制度づくりがこれから必要になってくると思います。

「働き方改革」が叫ばれるようになってから長い時間が経ちます。その一つに「長時間労働の是正」がありますが、10年前と比べると極端な長時間労働は減ってきたような気がします。お仕事をされていて色々な会社を見るかと思いますが、大槻さんの感覚としてはいかがですか?

大槻: 「働き方改革」で労働時間の上限が作られて、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満と決められました。ただ所定労働時間以外に月に100時間働く人は全体でみると少数派なので、「これは困る」となった会社は少なかったはずです。

ただ業界や会社の規模によるところもあります。大きな会社で競争が激しいところだと月300時間くらい働いている人はいたでしょうね。今はさすがにそこまで働く人はいないでしょうけど。でも、「社内フリーランス」という労働時間の上限がない雇用契約を利用して名目上の労働時間を引き下げている可能性もありますからね。そのあたりはまだ実態が見えていない部分が多いです。

本の中でも書かれていますが、「長時間労働の是正」はどうしても管理職に負担が集中しやすいですよね。部下を早く帰すために管理職が潰れてしまったら意味がないわけで、そうならないように会社としてどんなことができるのかというところをうかがえればと思います。

大槻: 単純な話ですけども、まずは「業務の棚卸」をやっていただきたいです。これをやることで、ほとんどの場合「なんでこんなやり方をしているの?」とか「なんでこの人がやっているの?」という業務がたくさん出てくるはずです。そういった非効率な部分を洗い出して外注すべきところは外注したり、ITツールを入れるべきところは入れると、個々人の労働時間はだいぶ見直されます。

上司がやるべきはこの棚卸と効率化なんです。やってみるとわかりますが、どんな職場でも無駄なことをやっていますよ。部下を早く帰した分の仕事を上司が抱え込むのではなく、棚卸をして業務の中身をまずは見極めることが大切です。

コロナ禍でテレワークが一気に広がりました。便利なのはまちがいないのですが、部下の労働管理の難しさや既存の評価制度との相性の悪さも指摘されています。大槻さんとしては、業務の性質的にテレワークが不可能という場合以外、テレワークは導入すべきというお考えですか?

大槻: できるならやったほうがいいと考えています。働ける人の幅が広がりますし、会社としても余分なコストが減るので。

テレワークという働き方に評価制度を合わせようとすると、成果主義のほうに寄ってくると考えられますか。

大槻: 2通り考えられます。一つはおっしゃるように成果主義に寄っていく方向で、もう一つは欧米のようにジョブ型の働き方にして給料は各人の職務に対して払うスタイルにする方向です。ただ後者は日本ではかなりハードルが高いです。働き方や評価制度を欧米型に完全に変えるのは国もあきらめていると思いますし、私も無理ではないかと思っています。

今回の本の読者としては企業の人事担当者や経営者が想定されます。最後にこうした方々にメッセージをいただきたいです。

大槻: コロナで若干頓挫したといいますか、いつの間にか消えつつある「働き方改革」ですが、もう一度しっかりと思い出していただいて、今でこそ人手不足で採用困難になってきている状況がさらに悪化しても耐えられるような業務、人事体制を作っていただきたいです。

将来勝つために、今から準備を始めるべきです。今回の本をその準備として何をするかを考えるために役立てていただけたらうれしいですね。
(新刊JP編集部)

書籍情報

目次

  1. はじめに
  2. 「働きやすさ」は最強にして最高の会社の武器になる
    ~今こそ求められる真の「働き方改革」
  3. まずは労働基準法を正しく理解しよう
    ~正しい理解のために、ここだけは押さえたい
  4. 次々でてくる新・雇用形態、御社で本当に使えますか?
    ~社内フリーランス、ジョブ型雇用、副業……、他社のマネをしてもうまくいきません
  5. ハラスメント対策が会社を変える
    ~”俺的にはセーフ”ではもう通用しない!
  6. 「社員の幸せと会社の業績」を両立させるということ
    ~会社の成長には本当の「働き方改革」が欠かせない
  7. おわりに

プロフィール

大槻 智之(おおつき・ともゆき)
大槻 智之(おおつき・ともゆき)

大槻 智之(おおつき・ともゆき)

1972年4月、東京生まれ。2010年3月、明治大学大学院経営学研究科経営学専攻博士前期課程修了。経営学修士。特定社会保険労務士、傾聴アソシエ、採用定着士、ジョブオペ認定コンサルタント、仕組み経営コーチ、500社を超えるクライアントを抱える社会保険労務士法人・大槻経営労務管理事務所の代表社員。採用、目標管理、評価制度、業務改善、経営仕組み化支援までHR全般を手掛ける。人事担当者の交流会「オオツキMクラブ」を運営し、300社(社員総数20万人)にサービスを提供する。

働きやすさこそ最強の成長戦略である

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著者:大槻 智之
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