行き先はなんと縄文時代!涙あり、笑いあり、友情あり!そして最後に待ち受ける真実とは――。
異世界縄文タイムトラベル

異世界縄文タイムトラベル

著者:水之 夢端
出版:幻冬舎
価格:1,200円+税

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本書の解説

時は2025年。浅間山からほど近い群馬県の笹見平に毎年恒例のサマーキャンプにやってきた、大学生21人と中学生32人、総勢53人からなる青少年たち。

大学生リーダー、中学生リーダーがそれぞれ決まり、竪穴式住居の宿泊など縄文文化を体験できる「縄文の家」で迎える最初の夜、彼らは今までに体験したことのない強烈な轟音と激震を感じる。

その時から辺りの様子は一変する。夜空に輝く星の数は少し多く感じ、浅間山も少し大きく見える。そして、スマートフォンは圏外。一体何があったのだろう?

青少年たちは大学生リーダーの林のもとでさっそく調査に乗り出す。
不自然に切断された道路。その先にある雑木林は、明らかに今まで見てきたそれよりも色が深い。そして、野生イノシシの襲来。不可解な出来事が起きていた。
さまざまな理由から、彼らはこう結論づける。ここは現代の日本ではない。どうやら4500年前の縄文時代にタイムスリップしてしまったようだ――。

時間を超えて、孤立してしまった若者たち。
一体なぜ彼らは縄文時代にタイムスリップしてしまったのか?
そして、無事に現代に戻ることはできるのか?

青少年たちの中に起こる「政治」をリアルに描き出す

異世界縄文タイムトラベル』(水之夢端著、幻冬舎刊)は縄文時代にタイムスリップしてしまった団結やいさかい、新たな友人との交流、社会の進化などを通して成長していく若者たちと、彼らが真実に辿り着くまでの冒険を描いたSF小説だ。

53人もの青少年たちが集うグループである。その中では政治が生まれ、派閥が分かれることだってある。

リーダーの林は社交的な人物であるがゆえに、原住民の縄文人たちと仲良くなるのも早く、惜しみない協力を受けることになる。特に最初に出会った縄文人の若きリーダー・ユヒトは、物語を通して林の理解者となる。

その一方で、縄文人との交流を疎ましく思う人間もいる。弁が立つ大学生の早坂だ。彼はグループの中でも一目置かれる存在で、発言に対する影響力も大きい。そんな彼は、ユヒトらとの交流を反対する。表向きは「歴史を歪めてしまう」というものだが、実は個人的な心情に由来される理由があった。女子大学生と親しくするユヒトに対する嫉妬である。

そして、早坂は林一派の失脚を狙って、凶行に出る――。

若者たちに待ち受ける、タイムスリップの「真相」と自分たちの使命

本作で描かれるものは政治だけではない。戦争、宗教、経済、自然災害など、今日の社会をかたちづくるさまざまな要素が持ち出される。

そして、少しずつ、タイムスリップの実態が明らかになり、林たちは真実へと近づいていく。なぜ自分たちがここにやってきてしまったのか。現代に戻れる方法はないのか。そして自分たちの使命とは。
最後の章で本当のことを知るまで、ノンストップで読み込むことができる。

若者らしい柔軟な発想で適応していく彼らの姿は、読み進めていくごとに頼もしくなっていく。また、仲間に支えられながらリーダーとして真の成長を見せていく林の姿も本作を楽しむポイントの一つだ。読書の秋、登場人物たちの冒険をぜひ楽しんでほしい。

(新刊JP編集部)

インタビュー

■「若者たちが自分たちに考え、自律的に動けば、新しい日本を創っていける」

『異世界縄文タイムトラベル』についてお話をうかがえればと思います。本作は大学生と中学生たちが縄文時代に行ってしまうというタイムスリップモノのSF小説です。このテーマのモチーフから教えていただけますか?

水之: 現代の若い人たちはデジタルに頼りすぎていて、Face to Faceではない生活をしているように思います。さらに昔の若者よりも保守的になりすぎているきらいがありますよね。

ただ、日本人の若者たちはもともと変革を志す性質を持っていたはずです。明治維新を成し遂げられたり、渋沢栄一によって近代資本主義が発展できたのは、そういうDNAを持っていたからなはずなんです。

そして、現代の若者たちもそういうDNAを発揮できるということを、この小説を通して伝えたいと思っていました。

縄文時代にタイムスリップということは、現代の文明にあるものすべてがなくなるということですよね。もちろんスマホもないですし。かろうじて電気はありつつも、通信も何もかもが遮断された状態で、0から開拓していくところにそのDNAを込めた。

水之: まさしくそういうことですね。

舞台は群馬県の嬬恋付近です。この舞台設定はいかがでしょうか。

水之: 実は私、大学教員をしていまして、ペンネームでこの本を執筆しているのですが、舞台設定は大学のゼミで学外に出ていって授業を行うという試みをしたことがありまして、そこで大学との縁から群馬県の嬬恋村に協力していただいたんです。

嬬恋では学生が地域活性化のお手伝いをさせていただくということで、0から企画を立ち上げて、実践していってもらいました。巻き込んで進めていくためには、現地の人を説得しなければいけないとか、さまざまな苦労があるわけですね。

そういったことを実践して、今、日本が求めているような社会に役立つ人材を育成するという試みを嬬恋でやり始めたんです。この物語のように、大学生が子どもたちとともにキャンプをしたり、スキーに連れて行ったりという企画も全部学生たちが企画をして。その経験をこの小説に入れたわけですね。

そうした活動を物語のモデルとしたわけですね。

水之: そういうことです。実際、嬬恋の笹見平には縄文式の竪穴住居が作られていて、以前は宿泊施設になっていたので、そこでキャンプをしたことがあるんです。それがまさに小説の最初のシーンのモチーフですね(笹見平縄文の里は、現在は閉館)。作中では、一夜明けたら時代が変わっていたという展開になるのですが。

もう一つは嬬恋村の文化遺産や自然の豊かさですね。浅間山もありますし、小説の素材になるようなものがたくさん潜んでいます。タイムトラベルものだけでなく、他の題材でも書けるように感じますね。

キャンプに来た大学生と中学生のグループは夜、轟音を耳にして、縄文時代にタイムスリップしてしまう。その中でグループリーダーを務める林という青年が本作の主人公の一人になりますが、彼の成長が物語の一つの主軸です。この林に対して託したものはなんでしょうか?

水之: さきほど若者の保守化という話をしましたが、私自身は今の若者たちも日本人が持っている0からつくり上げるDNAを受け継いでいて、そのDNAを目覚めさせたいということで、林にそれを託したんです。

林は、最初は頼りない小粒な人間です。でも、物語の中でリーダーとして成長していきます。それは、かつては世界で隆盛を誇っていた日本企業も、今はアメリカや中国の企業が覇権を握っていて、押されてしまっている状況があるわけじゃないですか。ただ、そんな状況でも、若者たちが自分たちに考え、自律的に動けば、新しい日本を創っていけるのだということを言いたくて、それを投影しているんです。

若者たちの可能性が一つのテーマなんですね。

水之: そうです。嬬恋村で活動をする学生たちを見ると、その力は十分に備わっているということは感じ取れますからね。

作中で彼らはいきなり縄文時代に放り投げられても、環境を受け入れてスポンジのようにいろんなことを吸収していくじゃないですか。

水之: そうなってほしいんです。ただ、まだまだ殻を破れていないようにも感じていて、そこがじれったいところですね。

水之さんの中で本作の登場人物でお気に入りの人物は誰ですか?

水之: 木崎という茶髪の女の子ですね。この子には特別な意味を持たせていて、こういうタイムスリップをすると、ほとんどの子は家に戻りたい、自分の時代に戻りたいと思うはずです。でも木崎はそうじゃない。現代には戻りたくないと言います。それは、彼女は貧乏な家の育ちで、格差社会の犠牲者だからなんですね。そういう、現代に帰りたくないという子たちを通して、社会の問題を浮き彫りにしたかったという点があります。

ほとんどの人は「戻りたい」となりますが、必ずしもそういう人だけではない。帰りたくないという人も出てくる。

水之: 現代が生み出した問題によって人生が犠牲になってしまっている人がいる。「帰りたくない」ということがせめてもの抵抗なんですよね。

水之さんにとってこの『異世界縄文タイムトラベル』という作品は、現代社会への批判の意味も込められているのですか?

水之: そうですね。経済格差の犠牲になっているのは、中学生や高校生、大学生といった若者たちなんですよ。それは明確に表現しないといけないと思ったし、過去に舞台を移すことで、より現代の問題点を明らかにさせるという意図がタイムスリップという手法に込めました。

■経済学、リーダー論、小説を通して学べる『異世界縄文タイムトラベル』

本作では権力闘争などの政治の仕組みや、経済の仕組みを学べる内容になっています。それが引いては人間がどのように社会をつくり上げてきたのかを追体験できるものにもなっていますが、そうした意図を込めて書かれたのでしょうか?

水之: そうですね。『やさしい経済学』や『すぐわかる日本経済』といった本は山ほどありますが、それだけ読んでも本当に理解できるかというと、なかなか難しいと思います。でも、こうしたストーリー形式で、経済学のことが分かってもらえれば嬉しいという思いはありましたね。

縄文人側にも若きリーダーといえる「ユヒト」という人物が出てきます。彼の存在感は作中でも随一ですが、この物語は林やユヒトといったリーダーたちに強くフォーカスされているように思います。この「リーダー」という存在をどのように描こうと思っていたのですか?

水之: リーダーという存在は実績が重要だと思います。カリスマ性だけで口ばかりではなく、しっかり実績を残してこそリーダーと呼べるのだと。

ところが今、日本の経済界では若きリーダーというのが出てきていません。小粒な人ばかりで、大粒なのはトヨタ自動車といった昭和の企業のトップだけです。アメリカや中国が台頭する中で、若い世代による大手のグローバル企業が日本から出てこないということは、リーダーがいないということなのだと思います。

これからコンセプトを持って実績を積み重ねていって、日本のために役立つような経済人が出てくるといいんですけどね。

ただ、最近の経営者や事業家でいうとちょっと変な目立ち方をする人が多いように感じます。なぜ日本人は小粒化しているのでしょうか?

水之: 言葉の小粒化は一つ理由のように思いますね。荒波に立ち向かわずに迎合してしまう傾向はあると思っていて、いわゆる総保守化と言いますか、すごく保守的な社会になっていますよね。それが若者を小粒化してしまっている要因になっている。

みんなが空気を読んでしまうみたいな。

水之: 政治の世界でも、ずっと安倍一強と言われてきて、誰もほとんど逆らうことができなかったですよね。みんな迎合しちゃっていた。そういう姿を若者はみんな見ていて、それが小粒化させている要因なんじゃないかなと思います。

水之さんは若者にもう少し強くあってほしいと思っているのでしょうか。

水之: そうですね。この物語に早坂という林のライバルが出てきて、彼は負けちゃうんだけど信念を持ち続けていた。そういう信念というか、気構えを若い人には持っていてほしいなと。

早坂というキャラクターはとても野心家ですよね。林の敵役として描かれています。

水之: ただ、彼は最後までブレなかったんですよ。それは彼の頭が固いわけではなく、後々の人たちの幸せのために、こうしなければいけないということを信じて行動していたんですよね。それは林も同じですが、こういう人物が出てくるといいなと思いますね。

もし水乃さんご自身が縄文時代にタイムスリップしてしまったら、まず何をしますか。

水之: 難しい質問ですね。まずは、食べられそうなものを確認して、何者かの襲来に備えて逃げ場を探す。あとは水の確保ですね。

そう聞くとやはり資源が大切なんだなと思います。

水之: 逆に資源がたくさんあると無駄遣いしたりしちゃいますけど、縄文時代にタイムスリップすることで、本質的なものが見えてくると思います。あとは安全ですね。安全と資源、それが大事だと思います。

また、本作の結末についてですが、これはもしかしたら賛否両論あるのではないかと思います。水之さんがこの着地に至った想いについて教えてください。

水之: 言いたかったことは、「絶対」と思っていたものは儚いものであるということです。それはおそらく今、我々が直面している事態と同じで、「便利な経済社会」と思っていた生活は、コロナで崩壊しました。

私たちは自分たちのことばかり考えて、この時間がずっと続くと思いながら生活しています。でも、もう一度立ち止まって本当に大切なものは何かを考えてみませんか? というメッセージをこの結末に託しました。当たり前の大切さをぜひ再認識してほしいです。

本作をどんな人に読んで欲しいとお考えでしょうか。

水之: 若い人で経済学とか経済を勉強したいけど、難しいなって思っている方ですね。この小説を読んだら経済学や経済の知識が自然に身についたと感じたい人。現代の視点から縄文時代を見ることはありますが、逆に縄文時代の立場から現代の経済の世界を照らすと経済社会の矛盾や問題点がわかりやすく見えます。そういう点をぜひ読んでほしいと思います。

(了)

書籍情報

プロフィール

水之夢端(ミズノムタン)

作家。著書「ソフト経済小説で読む超高齢化社会-21世紀ネバーランド政策-」(共著)晃洋書房、2018年。

異世界縄文タイムトラベル

異世界縄文タイムトラベル

著者:水之 夢端
出版:幻冬舎
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