働き方改革で 伸びる女性 つぶれる女性
「どうせ私なんか」と、あきらめていませんか?

働き方改革で 伸びる女性 つぶれる女性

著者:東谷 由香
出版:日本経済新聞出版
価格:1,500円+税

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本書の解説

日本の企業における女性の管理職の割合は何%か知っているだろうか。
2019年の帝国データバンク調べによれば、なんと7.7%。女性従業員の割合は平均25.2%だから、この割合は非常に少ないと言っても過言ではない。

2014年に安倍首相のもとで打ち出された「女性活躍推進」政策で、2020年までに女性の管理職比率を30%に引き上げるという目標が設定され、2016年には女性活躍推進法が施行された。しかし、目標には遠く及んでいない。

国も社会も女性の活躍を推進すべく制度を整えようとしている。しかし、変化のスピードは遅い。それが世の中の働く女性たちの実感だろう。
育児や家事との両立支援制度の不足、変わらない男性優遇の企業風土――こうした問題だけではない。企業研修講師の東谷由香さんは、「積極的に活躍を望む女性の割合が低い」という回答の比率が女性より男性の方が高かった(*1)ことをあげ、そのような男性の意識が女性の活躍を阻んでいるのではないかと指摘する。

女性がイキイキと活躍できる社会はすぐには実現しないだろう。
そう考える東谷さんだが、「すぐに変えられることもある」と前を向く。

それが働く女性側の意識だ。「働き方改革は女性にとって大きなチャンス」と述べた上で、著書『働き方改革で 伸びる女性 つぶれる女性』(日本経済新聞出版刊)で、女性が知るべきキャリアの考え方について説明している。

夫を「勘違いイクメン」にしないことが、女性のキャリアアップにつながる

例えば、「育休」に対する考え方について。
東谷さんはこの育休という制度に対して「疑問だらけ」だと投げかける。

育休を使って会社を1年間休む。この期間について「長すぎるのでは」と指摘する。1年間仕事から離れると、あまりにもその時間が長すぎて、復帰をする際の不安が大きくなってしまうことがある。何よりもそこでキャリアが分断されてしまう可能性もある。
今は週1回の出社やリモートでの時短勤務など、育児中でも職場とのつながりを絶やさず、仕事で成果を出せるような仕組みが多くある。こうしたものを利用しながらキャリアを継続して重ねていけるようにすることが大切だ。

また、女性だけが育休を取る社会の風潮についても東谷さんはメスを入れる。
小泉進次郎氏など、男性有名人の育休取得者が目立つが、それは取得者が少数派だから。現実は、女性が育休を取り、男性が働くというケースが大多数だ。その結果、夫が仕事に、妻は育児やパートに、という夫婦の役割分担が固まってしまい、いざ女性が仕事に復帰しても、育児に対する夫の協力がなかなか得られないということになる。

理想は、男性がちゃんと育休を取得し、早い段階から積極的に育児に参加させることだと東谷さん。男性を育児に参加させないと、子育ての過程において自分が何をすればいいか全く分からないまま、ただ夜泣きで寝不足になっただけで「自分は育児に参加している」と思ってしまう「勘違いイクメン」が誕生したりしてしまう。
女性側から「育休中に何かをしてほしいのか」をきちんと夫に伝え、育児の即戦力にしておけば、自分が仕事を続けていくときに、とても頼もしい存在になるはずだ。

これからの時代を生きていくために、自分の「強み」を見つけよう

もう一つ本書から、キャリアアップのために考えておきたいことをピックアップしよう。

それは、自分の「売り」は何かを考えること。これから先、「何があっても安全安心」という時代ではなくなる。AIの浸透などによって、正社員でさえも居場所がなくなっていくかもしれない。

そうしたときに必要なのが、自分の「強み」だ。「コミュニケーション能力が高い」「色々な人と合わせることができる」「どんな仕事でも断らず、丁寧に仕上げる」などの「売り」を持っていると強い。
ただ、「私には何もない」と思う人もいるだろう。東谷さんは劣等感をきちんと見つめ直すことで、自分の強みであったり、新しい自分の一面を知ることができるとつづる。
キャリアを考えることは自分を捉え直すことでもあるのだ。

東谷さんは、働き方改革が進み、長時間労働の是正や労働についての様々な制度が見直されている今こそ、キャリアに対する意識や行動を変えるチャンスだと言う。

今後、さらに女性の管理職の比率が高まり、より女性が活躍する社会になるためには、一人ひとりのキャリアに対する考え方、そして自分自身の生き方に対する考え方が変わっていく必要がある。

働く女性に向けて書かれている本書は、これからを考えていくうえで、必要なことを教えてくれる一冊だ。

(新刊JP編集部)

*1:「*平成21年版男女共同参画白書」より

インタビュー

■女性が管理職になるとメリットだらけ? その理由とは

東谷さんは本書の冒頭で女性管理職が増えていないことを指摘されています。実際、2019年の帝国データバンクのデータによれば、管理職の女性の割合は7.7%と低い水準にありますが、その原因はどこにあるのでしょうか?

東谷: 3つの要因があると思います。

1つ目は人事評価で、産休や育休で会社から離れたり、時短で働くと、フルタイムで働く男性との比較で評価が下がってしまい、管理職候補になりにくくなります。働いた時間で評価するのではなく、短い時間の中でいかに成果を上げたかという基準を持って評価をしてもらわないと、これは解決しません。

2つ目は、柔軟な働き方ができる環境が整っていないことです。特に子どもが小学校にあがり、学童保育が遅くまで預かってくれない「小1の壁」という言葉がありますように、働き続けるのが難しい状況なんですね。コロナ禍以降、リモートワークが推奨されていますが、これを今後も継続してもらい、さらに社会全体で小学生を預かるような仕組みが広がらないと厳しいですね。

3つ目は、男性管理職が忙しそうに見えること。つまり、管理職という仕事が魅力的ではないということです。実際、プレイングマネジャーで自分の業務を持ちつつ管理業務もしているという人がほとんどだと思いますが、そこを是正しないと「自分もできそう」という人はなかなか増えないと思います。一人で抱え込まずに適切に仕事を割り振るマネジメント力を見せてほしいですよね。

おっしゃった3つは環境要因的な部分が大きいと思います。つまり、女性が管理職として活躍できる土台が整っていない。一方で本書では女性個人の要因についても指摘されています。

東谷: それもありますね。研修をしていて、能力はあるのに自分に自信が持てないという方が多いように感じるんです。背中を強く押されればやるけれど、軽く押しただけでは踏み出さない。また、「リーダーは声高に主張できないといけない」という思い込みがあって、それができない。

女性管理職が増えている企業は、女性の背中を押すということをすごく丁寧にやっていらっしゃいますね。「あなただったら大丈夫。まずはこれだけやってみましょう」とサポートしながら、管理職を育成していくのが上手なんです。そこは女性管理職の少ない企業が学ぶべきところだと思いますね。

女性管理職の前例が少ないと、自分がどういう風になれるのか分からずに不安になりますよね。

東谷: ただ、男性の姿を見て学ぶ方もいます。男女問わず他者から学べることは多いですから、個々人が意識的に視野を広げることは重要です。

東谷さんは本書の中で女性に管理職になることを勧めています。そのメリットはどこにあるのでしょうか。

東谷: まずは時間の使い方が自由にできるようになるということです。今でさえいっぱいいっぱいなのに、これ以上時間取れないという人こそ、管理職になるべきでしょう。管理職になると、業務改善施策の提案だけでなく実行もしやすくなるので、自分にとって働きやすい環境をつくれるようになります。

2つ目は、管理職になると仕事が断然面白くなります。自分で考えて動く醍醐味が管理職にはありますし、社内や取引先の重要な話も耳に入ってきます。全体を見る仕事はやりがいがありますし、そういう仕事をしている人は周囲から魅力的に写りますよね。

時間が取られるのではなく、時間が自由になる。

東谷: より忙しくなりそうなことがネックと思っている人も少なくないでしょう。ただ、管理職になった女性の皆さんに話を聞くと「むしろ自由になった」と言う人が多いですね。

例えば本書の中に出てくる郵船コーディアルサービスの女性は、業務の無駄を見つけて改善したり、無駄な会議を整理したり、業務改善を次々と行っていった結果、みんな残業しないで終わるようになったと言います。女性が働きやすいように制度を整えていくことも管理職だからできたと。

自分自身の働きやすさが、周囲の働きやすさにつながるわけですね。

東谷: そうです。また、管理職になると人脈が広がるので、いろいろな人と出会う機会が増える。そうなると人生自体が楽しくなってくると口にしています。

東谷 由香(ひがしたに・ゆか)

■今こそ求められる女性のリーダー

女性がリーダーである方が、組織の柔軟性が増すという事例はコロナ禍の各国の対応を見るとよく分かります。コロナ対策で成功している国は女性がリーダーである国が多いですよね。

東谷: そうですね。女性は前例のないことを解決することが得意で、口を挟まれたり、阻止されたりすることがなければ、しっかり結果を出せるんです。これからの社会は前例のないことに対応していく時代ですので、女性の力がより必要になるはずです。

本書で育休の問題点を指摘されていますが、おっしゃる通り、女性が育休に入ってしまうと、そこで夫は仕事、妻は家庭と、夫婦間の役割分担が決まってしまいます。これを解決する術はあるのでしょうか。

東谷: 男性が育休を取っても3日だったり5日だったりと、短いケースをよく耳にします。そうなると、「ただ休みをもらっただけ」になりかねません。だから、1日でも2日でもいいので、夫に子どもをまるまる全部任せて、女性は育児から離れる。そういうことをすると、「育児をお手伝いする」の感覚が取れるのではないかと思います。

手伝わせるのではなく、全部任せてしまうんですね。

東谷: はい。私の知り合いに2週間育休を取った男性がいるのですが、ずっと家にいたのは2日くらいで、普通の休みと同じ気分でのんびりしていたそうです。自分がいるだけで、奥さんの気持ちが和らぐと勘違いしているのですが、彼にとってはそれが「協力」なんです。

そういう甘い考え方をする男性がとても多い。でも、まるまる任せないと、育児をしたとはなりません。

男性側の見立ての甘さでいうと、本書の中で「女性たちが乗り気でないから女性活躍が実現しない」という声に疑問を投げています。そのアンケートを見ると、「積極的に活躍を望む女性の割合が低い」と答えた割合が、女性よりも男性の方が多かったと。

東谷: 男性側から見ると、女性たちは遠慮しているように見えるようです。確かに自発的に手を上げるのが苦手な傾向がありますが、その環境が整っていないというのも一つ大きな理由です。

ビジネススクールに通っていた頃に感じたことですが、男性側の意識にも「女性の上司はちょっと…」という風潮があるのではないかと思います。これは個人的に感じたことで裏付けはないのですが、同期の男性からそういう声は聴きました。みな、頭では男女同等であるということを理解していても、そう思ってしまう人もいるわけです。この男性の拒絶意識って伝わるので、躊躇しちゃいます。男女が平等に社会で活躍するのは当然だと考える環境が欲しいですね。

東谷 由香(ひがしたに・ゆか)

■「働き方改革」は厳しい法制度。人生の方向性を決める良いタイミング

本書はタイトルの中に「働き方改革」という言葉が入っているように、「働き方改革を利用してキャリアを考える」というコンセプトがあります。その利用の仕方について教えてください。

東谷: 「働き方改革」は非常に厳しい法制度だと考えています。ひと言でいうと、「短い時間で成果を上げられない人はいらない」ということです。ただ、そうすることで生産性も上がり、残業も減る、有給が取りやすくなる。
その意味では、女性は「働き方改革」にどんどん乗っていったほうが有利なんです。働きやすさを求めて法律の範囲内で自分たちのやりやすい環境を主張していくべきでしょう。

「働き方改革」が進めば、必然的に残業手当がなくなります。だから、今までそこに頼ってきた人は厳しくなります。そこで、副業解禁という流れをつくって、自分で稼ぎなさいという政府の方針が見えます。

ただ、単純にダブルワークで仕事を増やして、というと今まで以上に労働をすることになりかねません。だから、ダブルワークをするにしても、自分がどんな未来を見据えていて、どんな能力が必要なのかを決めてからすべきでしょうね。

なるほど。人生を考えて戦略的に仕事を決めないと、ただ働く時間が増える。

東谷: そういうことです。もちろん、プライベートの時間を充実させてもいいんです。ただ、いつも遊んでいるわけにはいかないというのが現状です。休日もキャリアアップにつながるような何かを考えて行動したほうがいいでしょうね。

そのために取るべき行動はどういうものがありますか?

東谷: 例えば、リモートでの勉強会、フェイスブックのコミュニティなど、普段得られない情報が行き交うサイトを活用して、新たな情報を得てみてはいかがでしょう。

本当はビジネススクール的な場所に行くのが最も効果的だと思うのですが、全員行けるわけではないですから、まずは他社の人と接する機会を持つことですね。習い事でも、勉強会でも。前半で女性管理職の前例がないときの考え方をお話しましたが、そういうところで出会える可能性があります。

「自分はほどほどに働ければいい」という考え方についてはいかがですか?

東谷: そういう方は「ほどほどに働く」という覚悟をしてもらいたいです。働くことには変わりないですし、成果も出さないといけない。その覚悟もせずに不満ばかり言うのはフェアではありません。リーダーにならなくてもいいのですが、足を引っ張る存在になることだけはやめてほしいです。

人生100年時代において、特に若い世代は将来70歳、さらには80歳まで働かなくてはいけなくなるかもしれません。その年齢まで必要とされる人材になることを見据えて働いてもらえればと。

■今いる会社の中だけで考えない。自分の能力をまずは磨く

自分自身のキャリアアップを考える上で、何に重きを置いてキャリアデザインをすべきなのでしょうか。

東谷: 「キャリアアップ」は昇進だけを意味するものではありません。むしろ、昇進は結果であり、本質的に大事なのは、いかに自分の能力の幅を広げていくかということです。 それは業務知識を身につけるというだけでなく、コミュニケーション能力であったり、人間関係を構築する能力もあります。自分の中にある強みをどんどん強化していくことが、キャリアアップにつながっていくんですね。

また、自分がどういう方向に進んでいいのか分からないというときは、やはり会社の外の人と関わったり、習い事でも朝活勉強会でも、新しいことをやってみるといいでしょう。新しい景色を見ることで、気づくことはたくさんあるはずです。

なるほど。今の会社の中だけで考えないということですね。

東谷: そうです。今勤めている会社が今後ずっと存在するかなんて、誰にも分からないんです。そのとき、自分を助けるのは自分の能力ですから、まずは自分の能力を磨くことが大事です。

本書をどんな人に読んでほしいですか?

東谷: 30代、40代の進むべき方向が分からない女性の方、自信を失っている女性の方にぜひ読んでほしいです。ただ、この本を読んだ女性の方からは「男性にこそ読んでほしい」という声をいただくんです(笑)。その意味では、自分がこれからどうしていいか分からない、自信を無くしている方に読んでもらえればうれしいです。

最後に、管理職を目指している女性の皆さんにエールをお願いします。

東谷: 頑張っていればチャンスは必ず来ると思いますので、躊躇なく上に進んでほしいですね。本当にメリットばかりです。

また、ゴールは管理職だけではありません。もし、やりたいことがあるなら起業するという手段もあるでしょう。どんな働き方をしても、覚悟をもって取り組んでいけば、幸せな人生が待っていると思います。

(了)

書籍情報

目次

  1. はじめに
    焦って、選んで、あきらめていませんか?
  2. Ⅰ 働き方改革、本当に理解してますか?

    1. 第1章
      「女性活躍推進法」で、女性は活躍できるようになった?
    2. 第2章
      残業ナシで仕事が楽になる?
    3. 第3章
      育休制度で、仕事にも育児にも無理なく頑張れる?
    4. 第4章
      正社員はクビにはならない?
    5. 第5章
      福利厚生の手厚い会社はいい会社?
  3. Ⅱ 女性管理職って、本当にやらないほうがいいもの?

    1. 第6章
      なぜ女性は管理職になりたがらないのか?
    2. 第7章
      女性管理職が成功するために必要なこと
  4. おわりに
    働き方改革は女性の生き方改革

プロフィール

東谷 由香(ひがしたに・ゆか)
東谷 由香(ひがしたに・ゆか)

東谷 由香(ひがしたに・ゆか)

株式会社ウーノ・アクティブ代表取締役。企業研修講師。
1958年高知県土佐清水市生まれ。
中学から東京の自由学園に進学。
中央大学経済学部卒。中央大学大学院MBA。
大学時代はモデル事務所に所属し、CM、映画、舞台に出演も。専業主婦として子育ての後、日本経営協会の専任講師を経て、2010年、人材育成研修と顧客満足度、社員意識などの調査を請け負う(株)ウーノ・アクティブを設立。
上場企業を中心に女性向け管理職研修なども手掛けている。

働き方改革で 伸びる女性 つぶれる女性

働き方改革で
伸びる女性 つぶれる女性

著者:東谷 由香
出版:日本経済新聞出版
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