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【「本が好き!」レビュー】『出世の法則 財界・官界のトップから日銀総裁まで』岸宣仁著

提供: 本が好き!

■人物編 黒田日銀総裁は超読書家!
■天麩羅と大根は出世できない!
■あの片山さつき議員が前頭一枚目?! 財務省ウォッチャー垂涎の「大蔵省恐竜番付」
■本書で語られなかった出世の法則。「増税に汗をかいた奴が出世する」の法則

”霞が関”取材の第一人者である岸宣仁さんの新刊。
岸さんといえば、「岸宣仁と言えば大蔵省(現財務省)、大蔵省といえば岸宣仁」と言われるほど大蔵省に食い込んだジャーナリストであり、「税の攻防」、「大蔵省を動かす男たち」といった一連の著書をはじめ、週刊文春に起稿された「財務省“最強世代”の研究(上)(下)」という秀逸な記事も記憶に新しい「当代随一の大蔵省通」といっても過言ではない記者です。

そんな岸さんですが、近年は大蔵省をはじめとする広い意味での組織論、人事・出世論に関心が向いているようで、「財務官僚の出世と人事」、「キャリア官僚採用・人事のからくり」といった著書を書いています。
本書もそんな“人事・出世論”の流れを汲む一冊となっており、第一章は財界・官界の著名人、リーダーを取り上げ、第二章では大蔵省(現財務省)にまつわる「出世の法則」を語るという構成になっています。  

■人物編 黒田日銀総裁は超読書家!

人物編では本田宗一郎氏や奥田碩氏といった経済界の著名人も登場しますが、やはり財務省ウォッチャーにとって気になるのは財務官僚の素顔ではないでしょうか。
本書には武藤敏郎氏、山口光秀氏といった元事務次官の名も登場しますが、黒田東彦現日銀総裁の読書量には驚かされます。
黒田総裁との出会いは主税局税制第二課課長補佐の頃にまで遡るそうですが、元々学生時代は天文学者になるつもりで、哲学から倫理学、論理学、数学、物理学とありとあらゆる本を原書で読んでいたそうです。

その後、大学受験の土壇場で理系から文系に切り替え、東大法学部に進み大蔵省に入省したとのこと。
いまの理路整然とした話しぶりもこのあたりから来ているのだなと思うと大いに納得させられます。
黒田総裁には一刻も早くインフレ率2%を達成してもらいたいものです。

■天麩羅と大根は出世できない!

“ピカ5”、“ワル”、“後発有利”、“昔農林、今公共”などなど数々の隠語がある大蔵省ですが、本邦初公開で語られているのが「天麩羅と大根」というもの。
岸さんによるその解説を読めば「なるほど」と思わず納得してしまいます。
おそらく、ごく一般の民間企業でも「天麩羅」あるいは「大根」タイプの人間というものはいるのではないでしょうか。

■あの片山さつきが前頭一枚目?! 財務省ウォッチャー垂涎の「大蔵省恐竜番付」

そして、本書で初めて知ったのですが、およそ10年に一度のサイクルで「大蔵省恐竜番付」なる怪文書が省内に出回るのだそうです。
この「恐竜番付」、作者不明のものらしいのですが、タイトルの通り、大蔵(財務)省内の“恐竜と思しき人物”を東西の横綱から前頭十枚目まで並べたもので、一通目が88年~89年、二通目が04~05年、三通目が09~10年と計三度、過去に出回ったことがあるのだそうです。

とくに二通目(04~05年)は目を引く番付で、近年は“逆神”の異名の下、日本経済を操っているともいわれている“ミスター円”こと榊原英資氏をして「性格がキツすぎて同期からも疎んじられていた」とまで言わしめた片山さつき現議員ですら、前頭十枚目にすぎなかったという事実に「大蔵省にはどれだけ“アク”が強い猛者が揃っていたのか」と驚きを禁じ得ません。
(09~10年のものでは、晴れて“おか〇さん”の座を射止めていますが)
本書では現物も掲載されており、これは財務省ウォッチャーにとって垂涎の資料であると断言できます。

■本書で語られなかった出世の法則。「増税に汗をかいたヤツが出世する」の法則

そんな普段見ることができない財務官僚の一面が垣間見ることのできる本書ですが、本書で取り上げられていない「出世の法則」が一つあることを指摘したいと思います。

それは、「消費増税のために汗をかいたヤツが出世する」の法則です。
前出の「税の攻防」、「大蔵省を動かす男たち」や「検証 財務省の近現代史」「増税と政局・暗闘50年史」(ともに著・倉山満)「百兆円の背信(著・塩田潮)」、「大蔵官僚(著・神一行)」、現実の毎年の財務省人事を見ればわかりますが、消費増税のために汗をかいた者が必ず出世コースに乗り、貢献度の高い順に事務次官の座や、それに次ぐ国税庁長官などの高位のポストを射止めています。

これは「厳然たる事実」であり、当の財務官僚ですら否定したくとも否定のしようがないのではないでしょうか。
さらには現役時代に止まらず、退官後の天下り先にも序列があり、どの天下り先が割り当てらるのかということも”増税への貢献度”によって大きく左右されると言われています。

一般に「財務省が“増税ありき”なのは省益のため」と言われたりもしますが、さらに突き詰めて言えば「自分の出世のため」であると言っても過言ではありません。
そして、消費増税が見込めないときは、それ以外の税の引き上げに躍起になるのも“お約束”で今年2016年の税制改正では、発泡酒などの「第三のビール」が大幅に増税される改正が盛り込まれようとしているようです。

自らが出世レースを勝ち抜くためなら、国民の負担や日本経済に与える悪影響などまるで意に介することもなく増税を推し進める。

これが財務官僚にとっての伝家の宝刀の「出世の法則」なのです。

この伝家の宝刀がへし折れない限り、延々と消費税は引き上げられるのではないでしょうか。

財務官僚の”出世のための伝家の宝刀”が”増税”ではなく、”日本経済の成長・発展に寄与すること”に変わることを祈るばかりです。

(レビュー:Scorpions

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

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