だれかに話したくなる本の話

旅の魅力は「観光地めぐり」だけじゃない。「誰かに会いに行く」という醍醐味

紅葉が映えるこんな季節は遠くに旅行をしたくなる人も多いのではないか。

電車や飛行機で目的地に向かい、そこを観光するのもいい。でも、日本全国を自転車でまわり、人との出会いに重きを置く旅行も素敵だ

壁やまとうものがない自転車で、風や空気感を全面に受けながら、いろいろな人に出会い、美しい自然に出会い、美味しいご飯に出会う。

『地図を破って行ってやれ! 自転車で、食って笑って、涙する旅』(幻冬舎刊)は、自転車で世界一周を果たした石田ゆうすけさんが、これまた自転車で日本を駆け巡る旅行記である。

■「再会」を旅行の目的にする。

旅行といえば、新しいものやいまだ見たことのないものを見に行くことが目的になりがちだが、この旅行記は一味違う。

それは、これまで出会った人との「再会」のシーンが多くあることだ。

例えば、茨城に赴いた石田さんは、20年前のある出来事を思い出し、その時に知り合った女の子のいる美容院を訪ねる。

それはこんな思い出だ。

以前、自転車による日本一周の旅の最中、石田さんが野宿をしようとしていると、ジャージを着た女の子に話しかけられる。そして、2人は話しているうちに意気投合。その女の子から「家に来ないか」と誘われ、石田さんはその女の子の家で彼女の母親、弟と賑やかな時間を過ごしたのだった。

その後、手紙のやり取りはあったものの、20年間、一度も会わなかった相手だ。突然訪問しても忘れているのではないか。しかし、夜遅くに訪ねたその美容院から女の子の母親が現れ、なんと20年前のことを覚えていたのだ。

その母親の話によれば、あの時の女の子は結婚をしてもう家にいないとのことだった。残念ながら彼女には会うことができなかったが、石田さんは母親と長い間立ち話をして、思い出話や今の話をした。その20年の月日を埋める会話は、まるで「人生の旅」の語り合いのようでもある。

再会は自分だけのものではなく、相手にとっても同じ価値を持つ。「また20年後においでよ!」という言葉は、単なる観光とは全く違った旅の醍醐味を物語っている。

■「またおいで」と言ってくれる飲み屋の人たち

また、新しい人との出会いも旅の魅力の一つだ。

石田さんは同じく茨城の水戸で個人経営のお店にひょっこり入り、地元の人たちや常連さんたちと仲良くなる。

自分の住んでいる街であっても、「知り合いがいない飲み屋には一人では入れない…」という人も少なからずいるだろう。しかし、石田さんは全く知らない場所でも面白そうであればその輪にどんどん入っていってしまう。

石田さんの人懐っこい笑顔は「この人と仲良くなりたい」という気持ちになる雰囲気があるのだろう。そして、「火曜日にまたおいでよ」と声を掛けられる。そうして人との縁ができていくのである。

きっと石田さんはまたいつか、この茨城の飲み屋に行くはずだ。

 ◇

もしこの秋、どこか旅に行きたいと思ったら、「人との出会い」を一つの目的としてみるのもいいかもしれない。また、「あの人に会いに行く」というのもいいだろう。

ただ観光地をめぐるだけが旅ではない。自分の行きたいところに行き、人に会う。人と話す。そんな旅の魅力を映し出す一冊だ。

(ライター/ASUKA)

地図を破って行ってやれ! 自転車で、食って笑って、涙する旅

地図を破って行ってやれ! 自転車で、食って笑って、涙する旅

人との関わりは旅の最高の醍醐味の一つです。

この記事のライター

ASUKA

ASUKA

ダンサー、振付師

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