だれかに話したくなる本の話

村上春樹イチオシのサブカル本

『ヘンテコピープルUSA』(中央公論新社/刊、村井理子/訳)という“いかにもサブカル!”といった印象の本を手に取ったら、巻末の解説を村上春樹が書いていて驚いた。よく見ると裏側の帯にも同氏の名前が。



 普段、解説文を書くことがほとんどない村上氏が解説を書いた一体どういう本なのか、と興味が湧いて読んでみたら、これが実に面白かったので今回紹介したい。

 著者のルイ・セローは英BBCで人気を集めるジャーナリストだが、日本ではあまり馴染みがなく、もしかしたら父親で作家のポール・セローの方が有名かもしれない。

 さて、本の内容だが、ルイが手掛けたBBCの人気番組『ルイ・セローのヘンテコな週末』にまつわるエピソードを集めたもの。この番組はアメリカのサブカルチャーを面白おかしくとりあげるバラエティーなのだが、この本は番組で取り上げたちょっとヘンな人々がその後どうなったのか、ということに焦点が当てられている。そしてそれがメチャクチャで、とにかく面白いのだ。

 UFO信者で、宇宙人を殺したこともある(彼らの体にはものすごい量のネバネバが詰まっていたそうだ…)と主張する、自称・地球防衛軍司令官の行方を探るために国際UFO総会に乗り込んだり、チャネリングの場に立ち会う。そこでチャネラーの体を借りて降臨した宇宙人“コートン”とのコミュニケーションを試みるが、なぜか麻薬常習者扱いされ、“タイヤの溝をチェックすべき”など、どうにも的外れなアドバイスばかりをもらうエピソードなどは序の口。この他にも過去に取材した男性ポルノ男優を追って過激なポルノビデオ撮影に立ち会う、“自称ギャング”が集うラップ・バトル(「お前の顔はカエルだぜ」などとののしり合う)会場に潜入、などなど…。

 現代社会の片隅に生きるちょっとヘンな人が集う場に単身乗り込むルイだが、彼らの言動に困惑しつつも、なんとか共感しようとしている様子がたまらなくおかしい。

 村上春樹ってこういう本も読むんだ…と意外ではあったが、解説によると、ノンフィクション作品である『アンダーグラウンド』を書くために大勢に取材した経験があるらしく、だからこそルイに共感できるとのことで、なるほどと納得。村上ファンならこの解説だけでも読む価値充分だろう。


 
 いわゆる“サブカル”が好きな人でなくても間違いなく楽しめるので、ぜひ読んでみてほしい。
 なお、出版元の中央公論新社では本書の特設ページを用意。壁紙などもダウンロードできるようになっているので、そちらも要チェックだ。
(新刊JP編集部/山田洋介)