だれかに話したくなる本の話

危機にある日本の醤油作り 立ち上がったのは…

醤油や味噌など、日本の伝統調味料づくりに欠かせないのが、高さ約2メートル、直径約2メートルの巨大な木桶だ。ただ、日本固有のこの巨大桶をつくることができる桶職人は絶滅の危機。大桶づくりの技術が残せないかもしれないという。

そこで立ち上がったのが、桶専門の技術者や職人ではなく、醤油メーカーだった。「醤油屋が、木桶つくったら、おもろいやん」「木桶がいっぱい残っとる小豆島で、木桶をつくって、さらに木桶をどうやって残すか考えて、発信していけたら、めちゃくしゃおもろいやん」と、ヤマロク醤油の山本康夫さんが「木桶職人復活プロジェクト」を立ち上げ、最後の桶職人に弟子入りし、自分たちの手で技術を残すことに。

■伝統的醤油づくりに必須の「木桶」が絶滅の危機に

『巨大おけを絶やすな! 日本の食文化を未来へつなぐ』(竹内早希子著、岩波書店刊)では、ノンフィクション作家の竹内早希子氏が、木桶職人復活プロジェクトを約6年に渡って取材。桶づくりの輪を全国に広げた奇跡の奮闘記を紹介する。

木桶の現状と木桶でつくられた醤油とはどんなものなのか。今、日本で生産されている醤油のうち、木桶でつくられている醤油の割合は1パーセント。99パーセントの醤油は、ステンレス製、FRP(強化繊維入りのプラスチック)やコンクリート、ホーローなどのタンクでつくられている。

今使われている木桶は、江戸時代から戦前にかけてつくられたもの。木桶の板は多孔質で、目に見えない小さな穴がたくさん空いていて、その穴に「蔵付き」といわれるその蔵独自の微生物がたくさんすみついている。酵母や乳酸菌といった微生物は、長い年月をかけて独自の進化をしていく。その結果、その木桶の中だけの生態系ができ、そこにしかない酵母や菌が生まれる。その独自の微生物がつくり出す味や香りの成分が、蔵独特の醤油や味噌の決め手となる。ただし、木桶は手入れを怠ると、良くない菌が繁殖する危険性もある。一度生態系が崩れてしまうと、立て直すのが難しい。 木桶でつくる醤油は、多くの蔵元では、木桶にすみついた乳酸菌や酵母に熟成を任せる。なので、熟成するのに1年から2年、再仕込み醤油の場合は、仕込みに使う醤油づくりから数えて4年かかる。

一方、ホーローやステンレスのタンクは、表面がツルツルなので洗浄がしやすく、管理が簡単。熟成の期間を早めることが可能で、3ヶ月から長くて半年ほどで出荷できる。 木桶でつくられた醤油は、蔵ごとに個性が強くあらわれる。蔵独特の微生物は、古くから木桶で醤油をつくってきた醸造蔵にとってはなくてはならない宝物で、その微生物がすみつく木桶も大切な財産なのだ。

木桶の寿命は100年から150年。木桶職人がいなくなってしまったら、修理をすることも、新しい木桶をつくることもできない。現在、国内に残っている木桶は4500~4700本といわれているが、そのうち1100本が瀬戸内海にある小豆島に集中している。昔ながらの醤油蔵が多く残っており、木桶仕込みの醤油の本拠地ともいえる。そんな小豆島の醤油屋さんがどのように木桶を復活させ、日本の食文化を伝えていくのか。その奮闘記を本書から読んでみてはどうだろう。

(T・N/新刊JP編集部)

巨大おけを絶やすな! 日本の食文化を未来へつなぐ

巨大おけを絶やすな! 日本の食文化を未来へつなぐ

しょうゆ、みそ、酒など、日本の伝統調味料づくりに欠かせない巨大な木おけ。日本固有のこの巨大おけを、つくれる職人がいなくなる! 「しょうゆ屋が、おけつくったら、おもろいやん!」――立ち上がったのは小豆島のしょうゆ蔵。最後の職人に弟子入りし、次々に降りかかる困難を乗り越えて、おけづくりの輪を全国に広げた奇跡の奮闘記。

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T・N

ライター。寡黙だが味わい深い文章を書く。SNSはやっていない。

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