だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『もう一杯、飲む?』角田光代、燃え殻、島本理生ほか著

提供: 本が好き!

角田光代、島本理生、燃え殻、朝倉かすみ、ラズウェル細木、越谷オサム、小泉武夫、岸本佐知子、北村薫。
9名の人気作家による《お酒のある風景》を紡ぐ短編集。

この頃注意力が散漫。
長編がどうも読めなくなっていたので、こういう短編集はペロリと(内容から言ってゴクゴク??)いけた。楽しんだ。

印象に残ったいくつかについて残してみる。
トップは角田さんの《冬の水族館》。
大学時代の知り合いで、何年にもわたり不倫状態のふたり。
一見良い距離を保っているが、男性の方は自分が別の人と結婚する段階になってもその事実を告げなかった。
一時疎遠になったが偶然再会し、また関係が続く。
女性視線で語られる。男性の子どもも成長、現在は二人とも現状を変えたくないと思っている。
こんな場合普通退屈な話になると予想するが、この話はどこかおかしく、どこか可愛らしさも感じる関係。

島本さん《その指で》。
看護師と元患者でひと回り以上年の離れた陶芸家の男性との恋愛。
ある意味ドストレートな恋愛話で、普段読まないだけに妙に新鮮。
たぶん島本さんの描き方が共感できるものだったからだろう。

この本に興味を持ったのは越谷オサムさんの作品があったから。
《カナリアたちの反省会》。
そうそう、この本はお酒がテーマだった。この作品で深夜のファミレスでワインを飲み《反省会》をする若者たちをこっそり観察し文章にしている中年作家。
どうしても越谷さんご本人に当てはめてしまうけれど、それが妙にありそうで楽しい気分。
そしてこの作家はお酒が飲めない。下戸なのだ。
だからこそお酒をテーマに短編をという依頼にうまく乗れず、締め切り目前でパソコンを開きながらファミレスで焦っている。
相変わらずこの方の作品は愛すべき可愛いヒトたちがわんさか登場する。癒しw

小泉武夫《奇酒は貴州にあり》
小泉先生といえばもう《もやしもん》が即浮かぶ。
今回の発酵ものはお酒で、たぶんこれに関しては小説でなく先生ご自身のエッセイなのかなと思う。
中国で出会った満殿香酒。
国外に持ち出せないという貴重なお酒であり、飲んだ人間自身からとてつもなく良い香りを放つという。う~ん、いいなぁ。わくわくしっぱなしで読んだ。

朝倉かすみ《シネマスコープ》
初めて出会った作家さんながら、とりあげた題材、文章ともにとても魅力的だった。
朝ドラ見たさに他人の家の郵便受けを開き家の中を覗き込む幼稚園児のノンチー。
陽気な人々を描くかと思えばうらはら。
是非今度、この方の長編を1冊読んでみよう。

(レビュー:michako

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

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もう一杯、飲む?

もう一杯、飲む?

ときに酒は、記憶を呼び覚ます装置になる。わたしを魅了するあの人は昼間から水玉のお猪口を手にしていた。僕はビールの苦さに重ねて父の呟きを反芻する。恋の行方を探りながらそっと熱燗を飲んだ日、ただ楽しくて倒れるほど飲んだ夜、まだ酒を知らなかった若さを、今は懐かしく思う。もう会えない誰かと、あの日あの場所で。九人の作家が小説・エッセイに紡いだ「お酒のある風景」に酔いしれる。

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