だれかに話したくなる本の話

世界が注目する「昆虫食」で「コオロギ」が注目されるワケ

最近、スーパーマーケットのお菓子売り場で「コオロギせんべい」「コオロギチップス」など、コオロギを使ったスナック類を見かけることが増えた。

昆虫食というと、人によっては「絶対ムリ!」となるが、日本でもイナゴなどが古くから食べられてきたわけで、昆虫食の文化がないわけでもない点は周知の事実だろう。しかし、なぜ今昆虫食で、なかでも「コオロギ」なのか?その理由を教えてくれるのが『最強の食材 コオロギフードが地球を救う』(野地澄晴著、小学館刊)である。

■動物性たんぱく質が手に入らない時代がくる?

地球人口が増え続けることによって、今後世界のあちこちで食料不足が発生する懸念がある、という説は多くの人が聞いたことがあるのではないだろうか。国連食糧農業機関(FAO)によると、世界的な人口増加が加速するなかで、2020年以降の人口の増加にともなう動物性たんぱく質の不足量は、2050年には1億トンに達するという。

ならば畜産や水産を効率化して肉や魚を大量に生産すればいいじゃないかと考えたくなるが、実はこれらは生産される動物性たんぱく質の数倍から10倍ほどの飼料が必要になり、効率性に問題がある。

畜産飼料となるトウモロコシや大豆などは人の食料とも競合するし、水産養殖の飼料となる魚粉は海洋環境の変化と過剰な乱獲で減少傾向とあって持続性に疑問符がつく。畜産や水産の規模拡大で食料不足に対応するのは難しい、というのが昆虫食に注目が集まる理由なのだという。

肉も魚も野菜も豊富にあり、なおかつ人口も減少傾向の日本からするとあまり現実感のない話ではあるが、その日本とて食料自給率の高い国ではない。輸入に頼っている食料品が輸入元の食料不足で入ってこなくなる可能性がないわけではない以上、昆虫食は他人事ではないのだ。

■なぜイナゴでもカイコでもなく「コオロギ」なのか?

では、あまたある昆虫のなかでも、なぜ「コオロギ」なのか?
東南アジアの食文化と深く結びついているコオロギ。先述のFAOも高効率な動物性たんぱく質の供給源としてコオロギの活用を推奨しているのだが、その理由はいくつかある。

まず、同じく食用になっているイナゴや蚕と比べると飼育が簡単なことが挙げられる。イナゴはイネの葉をエサにするし、絹を産出する蚕は桑の葉しか食べない。つまり、どちらもかなりの「偏食」なのだ。

この点で、雑食性のコオロギは飼育が楽。また、この性質によって廃棄されていた食品残渣を飼料にあてることが可能であり、近年社会問題になっている「食品ロス」の解決法としてもコオロギは注目されている。今後研究が進み、食品残渣だけで飼育できるようになれば、コオロギは超低コストの動物性たんぱく質供給源になりえるのである。

また、コオロギは飼育に広々とした農場もいらず、限られたスペースで高密度に飼育できる。そして品種改良の技術も確立されている。これらを合わせて考えると、コオロギはSDGs時代の「期待の星」なのだ。

「そんなこといっても、コオロギが当たり前に食卓に並ぶなんて、ずっと先のことでしょ?」と思うかもしれないが、ヨーロッパや米国ではすでにコオロギ・パウダー入りのパンやプロテインバーが販売されて、普通に食べられている。

いずれも昆虫食の習慣がない地域であると考えると、日本でもコオロギ食が普及するのは意外に早いのかもしれない。実際にコオロギをビジネスにする企業は出てきており、本書からはビジネスとしてのコオロギと食文化としてのコオロギの萌芽を感じとることができるはずだ。

(新刊JP編集部)

最強の食材 コオロギフードが地球を救う

最強の食材 コオロギフードが地球を救う

「食糧危機に瀕している人口は世界で1億5000万人を数え、前年比で2000万人増。この傾向は今後も続く」と国連が警鐘を鳴らしています(2021年5月時点)。

こうした状況で脚光を浴びているのが「昆虫食」、なかでも「食用コオロギ」に注目が注がれています。

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